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高等教育の無償化プロセスにつながる修学支援制度への法改正を求めるとともに、修学支援を口実とした学生管理の強化と大学運営への介入に反対する特別決議
2019年8月30日
全国私立大学教職員組合第22回定期大会
2019年5月10日、参議院本会議で「大学等における修学の支援に関する法律(以下、大学等修学支援法)」が自民党・公明党・国民民主党・日本維新の会等の賛成多数により可決・成立した。「高等教育の無償化」を謳いながら、消費増税による増収分を財源に、少子高齢化社会における成長政策として位置づけ、支援対象を世帯年収380万円未満に限定した、高等教育への修学支援制度が2020年4月から施行されることになった。
そもそもこの課題は、1979年の批准以来、留保してきた国連・経済的・社会的及び文化的権利に関する国際規約第13条2(b)及び(c)「中等・高等教育の漸進的無償化の導入」の留保撤回(2012年)に関するものであり、権利としての高等教育の機会保障を進めるべきものであった。ところが政府は、「急速な少子化の進展への対処に寄与するため、真に支援が必要な低所得者世帯の者に対して、授業料及び入学金の減免と給付型奨学金の支給を合わせて措置する」ことが目的との国会答弁を繰り返した。法の趣旨及び目的は、社会権規約委員会の勧告を受け容れ、高等教育の格差是正をめざそうとしたものとは言えない。また、支援の対象外となった低・中所得者世帯にとっては、消費増税に加え、予想される学費値上げによって、より経済的困難を増大させるものでしかない。
支援額は、住民税非課税世帯には3分の3、年収300万円未満世帯には3分の2、年収300万円から380万円未満世帯には3分の1相当分が支給もしくは減免されるが、私立大・自宅生の場合、入学金を含まない年間支援総額はそれぞれ約116万円・77万・39万に留まり、年間学生生活費約200万(日本学生支援機構2016年度調査)に遠く及ばない。また、全体の17.6%を占める年収400万〜600万の世帯(同前)には何らの支援もない。
確かに従来の給付型奨学金制度と比較すれば大幅な拡充ではあるが、奨学金の給付と授業料免除だけでは低所得者層の進学率の上昇につながらない可能性、貸与型奨学金受給者の一部が給付型に移行するだけに留まる可能性があり、従来は中所得者層まで対象となっていた国公立大学の授業料免除が縮小される恐れさえある。
支援対象の学生には、所得要件だけでなく、個人要件が課される。進学後の学修状況を見極める必要があるというが、それは打ち切り条件の事前提示である。「修得単位数が標準5割以下」「出席率が5割以下」の場合には直ちに支援打ち切り、「修得単位数が6割以下」「GPAが下位4分の1」「出席率が8割以下」等の場合には警告の上で、連続した場合は支援を打ち切るとしている。アルバイト収入なしには学生生活を送ることが不可能である等の学生個々の事情を斟酌することなく、一律の基準によって切り捨てることは高等教育の機会均等に逆行するものと言わざるを得ない。
また、大学にも機関要件が課される。学問追究と実践的教育のバランスが取れていることが必要であるというが、大半の要件は学生に対する支援とは関連が薄く、むしろ、文部科学省・法人および理事会による垂直構造的な大学運営への介入の強化を目論む学校教育法・私立学校法の改正との関係が深いものである。「実務経験のある教員の授業1割以上」「法人理事に産業界等の外部人材を複数任命」「シラバスの作成、GPAなどの成績評価の客観的指標設定」「厳格かつ適正な成績管理の実施・公表」「財務諸表等、定員充足状況・進学・就職状況などの情報開示」等を証明する書類を提出し、文部科学省が確認する、さらには、学生の学業成績が著しく不良である場合等に法人が授業料減免の認定を取り消し、文部科学省に届出する義務まで課すというものである。
低所得世帯に限った給付策としてではなく、他の先進諸国と比べて低い高等教育機関への公的負担比率を上げ、授業料を引き下げるなど、すべての人の高等教育への機会を保障することを念頭に置いた就学支援策とすることが、国連人権規約が求める高等教育の無償化政策の方向性である。真に「高等教育の漸進的無償化」プロセスにつながる法改正を要求する。
さらに、修学支援策の導入を口実として政府が学生管理の強化及び大学運営への介入を行うこと、そして法人に権限を集中し、理事会による大学教育への介入を促すことは、大学の研究・教育の充実発展を阻害するものでしかなく、法人の公共性・透明性をかえって後退させるものになることから認めることはできない。
右、決議する。
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