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大学・学問の自由を侵害する「国際卓越研究大学法案」の可決成立に抗議する声明

 

 2022年6月11日
全国私立大学教職員組合中央執行委員会



 2022年5月18日、「国際卓越研究大学の研究および研究成果の活用のための体制の強化に関する法律案(以下、法案)」が、参議院本会議において自民、維新、公明、国民等の賛成多数で可決、成立した。1万8千筆に及ぶ反対署名の提出や緊急院内集会の開催等もあり、各種メディアも法案内容について取り上げたが、衆参両院ともに参考人による意見陳述もないまま、実質1日だけの委員会審議で本会議採決に付されたのである。

 法案の成立を急いだ理由は、岸田政権が掲げる「新しい資本主義」の成長戦略の柱に、10兆円規模のファンドを活用した大学の国際競争力の強化及びイノベーション創出の促進が位置づけられていたことにあった。

 委員会審議の中で、大学の「研究力」低下の背景には、脆弱な大学の財政基盤、研究者が研究に専念できる時間の減少、博士課程進学者の減少、若手研究者の不安定な研究環境等がある等の政府答弁を引き出すことができたが、国立大学法人化以降の大学改革が研究力の強化に寄与してきたとの認識の下で、国際卓越研究大学の認定によって研究と研究成果の活用を促進できるとする文部科学省の答弁に回収されてしまうことになった。

 法案にはいくつもの問題点があることを指摘してきたが、特に、1.財政投融資を原資とする政府系ファンドの運用益を財源としていること、2.認定を受けるためには、年3%以上の「事業成長」、国際的に卓越した研究成果の創出、大学への学外者を中心とするガバナンス組織(合議体)の設置という3要件のクリアが条件となっていること、3.国際卓越研究大学に認定されるのは数校であっても、今後の大学改革施策を通じて、すべての大学に波及する恐れが強いことについて、政府側は法案の提案理由等を繰り返し説明するのみで、論点が掘り下げられ、疑問点が解明されることはなかった。

 極めて重大な問題点を抱えたまま、拙速な審議で法案が可決・成立されたことに対し、私大ユニオン中央執行委員会は抗議の意思を表明する。また、私大ユニオン各単組・個人組合員のみならず、心あるすべての大学教職員に対し、抗議や反対の意思表示を行うよう、大学の枠や加盟組織の違いを越えて呼びかけるものである。

 国際卓越研究大学法は、私立大学の機能別分化を強化する私立大学等改革総合支援事業創設(2013)、教授会を教育研究に関する事項について審議する機関として枠を嵌めた学校教育法改正(2014)、「国立大学法人等の組織及び業務全般の見直しについて」の通知をめぐる「教員養成学部・人文社会系学部廃止、理系重視路線」加熱報道(2015)、第3期中期目標期間開始に合わせた国立大学法人運営交付金の枠組みの分化(「卓越した教育研究」「専門分野の優れた教育研究」「地域貢献」)と指定国立大学法人制度の創設(2016)、学問の自由・独立性を侵害し、学術総動員体制の布石とも言うべき日本学術会議会員候補者任命拒否(2020)、不祥事が続発する私学法人のガバナンスには問題が多いという意識を醸成させた私大ガバナンス論議(2021)等、大学政策を新自由主義国家施策に合致させるための、さまざまな、そして不可解な動きの集約点としてあった。また、5月11日に可決、成立した軍事研究を加速させることを意図した経済安保推進法案や昨今の防衛費の大幅増額、軍事同盟強化等の動きと合わせて考えるならば、国家権力による干渉を排除する大学・学問の自由という戦後の基本的な大学政策の歴史的な転換点となる要素を潜在させたものとも見ることができる。

 重大な問題を抱えた法案の国会提出に対して、大学関係者全体を巻き込むような論議や全国的な運動をつくることができなかった原因として、大学等の労働組合の弱体化が挙げられる。課題の大きさ、重要さに比べて主体が非力であることを率直に認め、これを克服する運動と組織を創り出していくことが求められている。

 国際卓越研究大学の認定は、特定の大学に集中的な投資を行い、それ以外の大学には地域人材の育成等の任務を与えて機能分化させることにつながる。18歳人口の減少に伴う避けられない対処との受け止めもあるが、バブル崩壊後、行き過ぎた、あるいは誤った「選択と集中」によって、経営危機に陥った企業、リストラされた多くの労働者、工場閉鎖等によって疲弊した地域が続出したことを忘れるわけにはいかない。

 現時点で明らかなことは、まず、専門家以外が研究内容を評価する公の制度ができたことである。国際卓越研究大学の認定や計画認可に関与する内閣府の総合科学技術・イノベーション会議(以下、CSTI)は、内閣総理大臣の政策立案組織として設置され、14名のメンバーのうち閣僚は5名、研究者はわずか5名に過ぎない。

 さらに、最高意思決定機関として合議体が必置とされたことである。半数以上が学外者からなる合議体のメンバーが、国立大学では学長の選考も担うことになる。教学に関することには立ち入らないとされているが、カリキュラム編成や教員人事に影響を与える懸念は否定できない。

 われわれは今後も、大学・学問の自由を守り、雇用と労働条件を守るために、制度運用のための規定整備や条文解釈において逸脱や曲解がまかり通ることがないよう、付帯決議や政府答弁を拠りどころにして監視・批判活動を行っていく。合わせて、合議体設置の法的根拠となる国立大学法人法、私立学校法の改正の動きを注視し、とりくみを強化していく。

 

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